永野芽郁 不倫報道時のCM集
テレビの前に座り、夜のニュースを眺めていた私は、映画『かくかくしかじか』の30秒CMに目を奪われた。漫画家を夢見る美大生とスパルタ講師の物語を描いた実写映画だ。CMには劇中のコミカルなシーンや感動的なカットが流れ、観客のコメントがテロップで表示される。その中の一つ、水色のシャツを着た30代くらいの男性の言葉が耳に刺さった。
「開始7秒で泣いてました。」
男性は穏やかな笑みを浮かべ、シアターで涙を拭う姿が一瞬映る。たった3秒のシーンだが、違和感が胸を突いた。7秒で泣く? どんなに感動的な映画でも、7秒で感情移入は無理だろう。SNSの感想では、序盤はコミカルなシーンが多いらしい。しかも、この映画は主演・永野芽郁の不倫スキャンダルで話題が荒れていた。既婚俳優・田中圭との報道で、映画の評判にも影が落ちている。そんな中での「7秒で泣いた」は、どこか不自然だ。
私はリモコンを握り、画面を凝視した。誇張された宣伝だろうか? だが、胸のざわめきは収まらず、妙な疑問が頭を離れない。
翌日、仕事から帰宅してテレビをつけると、またあのCMが流れた。男性のコメントに、私は凍りついた。
「開始6秒で泣いてました。」
昨日は「7秒」だった。記憶違いではない。慌てて昨日の録画を確認すると、確かに「7秒」と表示されている。なのに、今日は「6秒」。背筋に冷たいものが走った。ネットを検索したが、誰もこの変化に触れていない。スキャンダルや映画の感想ばかりだ。私はノートに「7秒→6秒」と書き、考え込んだ。これは、カウントダウンなのか?
次の日、CMのテロップは「開始5秒で泣いてました。」
心臓がドクンと跳ねる。秒数が1日ごとに1秒ずつ減っている。私だけがこの異常を追っている。SNSでも誰も気づいていない。0秒になったら、何が起こる? 映画の仕掛けか、それとも何か大きな予兆か? 頭の中で、SFめいたシナリオが浮かぶ。世界の終わり、時間の崩壊……。馬鹿げていると思う一方、恐怖が胸を締め付ける。
4日目。「開始4秒で泣いてました。」
私はテレビに近づき、震える手でノートに「4秒」と書いた。残り4日。0秒はすぐそこだ。ネットを漁るが、手がかりはない。スキャンダルの騒ぎで、誰も秒数の変化に気づかない。私は一人、カウントダウンの意味を追い続ける。映画と関係あるのか? それとも、もっと恐ろしい何かか?
3日目。「開始3秒で泣いてました。」
仕事も手につかず、頭はカウントダウンで埋め尽くされる。0秒で何が起こる? 私の精神が狂っているのか? だが、ノートに並ぶ「7秒→6秒→5秒→4秒→3秒」は現実だ。部屋の電気をすべてつけ、暗闇を追い払う。外の街は静かだが、胸の警報は鳴り止まない。
2日目。「開始2秒で泣いてました。」
残り2日。恐怖と好奇心が交錯する。
私はノートに仮説を書き出す。プロモーションの仕掛け? 技術的ミス? それとも、大きな計画の予兆? 最後の仮説に、背筋がぞっとする。窓の外の街が、急に遠く感じられた。
1日目。「開始1秒で泣いてました。」
残り1日。私は眠れず、テレビの前で膝を抱える。男性の笑顔が、今日なぜか不気味だ。0秒は明日。心臓が破裂しそうなほど鼓動が速い。何が起こる? 世界の終わりか、私だけの異常か? 部屋に閉じこもり、カーテンを閉めた。外の世界が、異様に静かだ。
そして、運命の日。0秒の日。
私はテレビの前に座り、CMが流れるのを待った。心臓が破裂しそうなほど鼓動が速い。時計は夜の8時を指している。CMの放送時間だ。画面が切り替わり、いつもの映像が流れる。劇中のシーン、観客のコメント。そして、男性の顔。
テロップが表示された。
「開始0秒で泣いてました。」
私は息を止めた。男性の笑顔が、画面いっぱいに広がる。涙を拭うカットは、いつもと同じ。だが、どこか違う。背景が、歪んでいる。シアターの座席が、ぐにゃりと曲がっているように見えた。一瞬、画面がチラついた。ノイズが走り、音が途切れる。
そして、突然、テレビが真っ暗になった。
私は立ち上がり、テレビを叩いた。だが、何も映らない。部屋の電気が一斉に消え、静寂が訪れる。窓の外を見ると、街の明かりも消えていた。まるで、世界から光が消えたかのようだ。
「何だ……これは……?」
私は震える声で呟いた。心臓が止まりそうな恐怖が、全身を包む。0秒になった。カウントダウンが終わった。そして、何かが起こっている。
突然、頭の中に声が響いた。低く、冷たい声。
「気づいてしまったね。」
私は振り返ったが、誰もいない。声は、頭の奥から直接響いてくる。
「君だけが、カウントダウンに気づいた。だが、もう遅い。」
「何!? 何なんだ、これは!?」
私は叫んだが、声は部屋に虚しく響くだけだ。次の瞬間、床が揺れた。いや、揺れているのは床だけじゃない。空間そのものが、歪んでいる。壁が溶けるように崩れ、窓の外には何もない、ただの黒い虚空が広がっていた。
「0秒になったとき、すべてが始まる。」
声が続ける。私は膝をつき、頭を抱えた。何が起こっている? 映画のCMが、こんなことにつながるはずがない。だが、現実は私の理解を超えて崩れていく。
突然、目の前に映像が浮かんだ。まるでホログラムのように、空中に映し出される。それは、地球の映像だった。青い惑星が、ゆっくりと赤く染まっていく。都市が崩れ、海が蒸発し、大気が裂ける。まるで、地球そのものが死にゆく姿だ。
「これは……何だ……?」
私は呟いた。声が答える。
「君たちが目を逸らしている間に、すべてが決まっていた。スキャンダル、映画、騒動……すべては、目を逸らすための装置だった。」
私は理解できなかった。だが、映像は続く。ニュースの映像が重なる。永野芽郁のスキャンダル、ネットの炎上、世間の怒り。そして、その裏で、誰も気づかないうちに、何か巨大な法案が可決されていた。ニュースのテロップが一瞬映る。
「地球再生計画法、成立。」
「何!? 地球再生計画!?」
私は叫んだ。だが、声は答えない。映像はさらに進む。地球が赤く輝き、爆発する。そして、すべてが暗転する。
私は床に倒れ、意識が遠のく。最後に頭に浮かんだのは、あの男性の笑顔だった。「開始0秒で泣いてました。」その言葉が、頭の中で反響する。
そして、私は目を閉じた。
私の意識が戻ることはなかった。世界がどうなったのか、誰も知らない。カウントダウンは終わり、何かが始まった。だが、私にはそれを知る術がない。ただ、確かなことは、私が最後に見たあの映像が、地球の終わりを告げていたということだ。
誰も気づかなかった。誰も、秒数の変化に疑問を持たなかった。私だけが、カウントダウンに取り憑かれ、答えに辿り着けなかった。そして、0秒になったとき、すべてが終わった。
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